CFD TOKYO 産地ツアーレポート|2026年6月11日・尾州(愛知県一宮市ほか)
写真・文 CFD事務局 Miku Sato
1日で、産地を縦に見る

いい生地に出会えるかどうかは、ブランドの強さをそのまま左右する。
けれど若手・新興ブランドにとって、「産地と直接組む」ハードルは高い。
どこに頼めばいいのか、小ロットで相談していいのか、何を聞けば伝わるのか──
最初の一歩がわからない。
CFD TOKYOがデザイナーと産地をつなぐのは、そこに橋をかけるためだ。
今回訪ねたのは、毛織物の一大産地、尾州。
1日で、ものづくりを工程順に縦へ見通すルートを実現することができた。
これも瀧定名古屋さんの計らいと、ものづくり部会長でもある糸編の宮浦さんのアテンドのおかげである。
色で妥協しない。素材の表情で差をつける。発注の勘所を知る。産地を背景に語る──。
それぞれの現場に、デザイナーのための引き出しがあった。
1. 尾泉染色 ──「染め物は、料理である」

まずは、糸の染色。先染めと呼ばれる工程にあたる。
その工程を支える尾泉染色株式會社の社長が、プライドと粋を感じる熱い語り口で、自ら全工程を案内してくださった。
印象的だったのは「染め物は料理である」という一言。「どんなものでも染めます」と言い切る裏には、繊維ごとにどの温度で・どれくらいの時間かけるか、糸をどれくらいのゆるさで巻くか──そんな技術がぎっしり詰まっていた。
しかもそれを20人ほどのメンバー全員が熟知し、どの工程でも品質が担保される。測色して染料を自動算出する装置でも再現できるのは80〜90%。残りを、洗い上がりの色まで想像して詰めるのが職人の腕だ。
2. 四葉織房 ──「なんでも織れるんで」

できた系から、生地を織る。
「ションヘルはなんでも織れるんで」。難しい顔ひとつせず、織機の仕組みを丁寧に説明してくださった。
なぜションヘルは独特の風合いが出るのか。空気というよりも、横糸が切れることなく折り返していくことで、糸の撚りが左右にずれる。だから膨らみが出る。
製糸も、糸を通す工程も、結局その方が質が高い。そんなふうに、すべてに気が配られている。
そのうえで「ションヘルで織ったかレピアで織ったか、ぶっちゃけ私が見てもわかんないですよ」と軽快に笑う。技術への絶対の自信があるからこそ言える一言だった。

3. SOTOH ──「織物は生き物だから」

織り上がった生地を、染める。#1の先染めに対応して、後染めと呼ばれる工程だ。
百聞は一見にしかず。朝、尾泉染色で糸染色を見てきたおかげか、すでに染色プロセスの話がすっと入ってくるようになっていた。
後染めでも、鍵を握るのはやはり水だ。尾州は水源に恵まれ、しかも軟水であること──軟水ほど染料がよく入る。これこそが、尾州で毛織物が発展した理由の一つだという。加工整理では何トン単位の水を使う。だからこそ、使う水を減らす工夫から「なぜ偶数反数で発注すべきか」という実務の勘所まで、惜しみなく説明してくださった。
水の話は、一社の努力にとどまらない。1985年ごろから尾州一帯に張りめぐらされた地下配管、工業用水の受水と排水を担うこの仕組みは、世界に類を見ない規模で今も安定して稼働している。産地全体で水を扱うインフラが、毛織物の尾州を足もとから支えているのだ。
社長やリーダー陣と現場スタッフの距離が近く、みんなが楽しそうに働いていたのも印象に残った。

4. mon atelier ──「真のアトリエ」

先染め、織り、後染め、整理加工──そのすべての工程を経て、糸はようやくここへ届く。最後の現場、縫製工場だ。
工場には、日本を代表するブランドから、いまのトレンドを牽引するレーベルまで、名だたる服やサンプルがずらりと並ぶ。それを目にした瞬間、参加デザイナーたちの目の色が変わった。
何より印象に残ったのは、その経営姿勢だ。モンナトリエは、瀧定名古屋の株式会社TAKISADA TECHNICAL SUCCESSORと二人三脚でものづくりを育ててきた。そしてその姿勢が、現場の一人ひとりにまで濃く浸透している。だからこその柔軟さと質の高さを、語られる言葉の端々から、見て回った現場の空気から、並ぶプロダクトの全てから、感じることができた。
社名の由来も、その思想を物語っている。「mon atelier──『私のアトリエ』。ものづくりへの向き合い方は、前身の森縫製所の頃から変えていない。一人ひとりが、自分のアトリエとして仕事に向き合う」。取材のあいだ、その言葉が何度も口をついて出た。
だからこそ、ここではオペレーター全員が全工程をこなす“全能工”だという。工場全体の質をここまで底上げできたのも、その思想あってのことだろう。
そしてこれこそが、日本のものづくりの真髄だと感じた。尾州という毛織物産地、そしてトヨタ方式の応用。細かなフィードバックを一つひとつ改善として積み重ね、どんな要望にも応えようとする気概。その積み重ねがこれだけの技術と製品を生んできたのだと思うと、重ねられてきた手間の途方もなさに、鳥肌が立った。
最後に ──「なんでもやる」というDNA
尾州の職人に共通する発言、スタンスがある。「なんでもやる」だ。
「うちはとにかく、なんでもやるんで」
「なんだって染めます」
「どんな織りも対応するために」
「できなかったことは結局なくて、これまでもなんとかなってきた」
そんな言葉が、1日を通じて続いた。できない理由より、できる方法を考える。そこから工夫や美学が生まれる。その気概ある職人文化が、尾州のDNAのように息づいている──そう感じずにはいられなかった。
そしてこの「なんでもやる」産地は、新しいブランドと組むことに、とても前向きだ。


産地と組みたいデザイナーへ
CFD TOKYOは、デザイナーと産地をつなぐ機会をこれからもつくっていきます。
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- 産地と組んで、ブランドの背景を語れるようにしたい
そんな方は、ぜひCFD TOKYOへ。産地ツアーや合同展示会など、デザイナーがビジネスを前進させる・拡大させるときに必要なアクセスを全て用意しています。
